雷神社・風神雷神像
草彅裕
幼い頃、夏休みになると村の集会場に子供たちで集まりよく遊んだ。敷地内には小さなお堂があり、横の祠を開けると道祖神のお面が祀られており、その憤怒の形相に見てはいけないものを見てしまったような、近寄りがたい恐ろしさを感じた。物言わぬ道祖神は、道理では太刀打ちできない未知の存在に対峙する心構えを、幼心に教えてくれたのかもしれない。
風神雷神像を撮影するにあたり、やはり山形出身の偉大な写真家、土門拳を意識せずにはいられない。土門拳が代表作となる室生寺の仏像を初めて撮影したのは1939年、太平洋戦争終結前のことであった。天皇を神とする価値観の時代、かつて心の拠り所であった仏像に、カメラを通しどのような思いで対峙したのだろうか。
風神、雷神の顔は、環境による劣化が進んでいるが、血肉の通った生身のように傷つき、異様な迫力を感じさせる。長い年月放置され、朽ちかけた寸前に救い出された経緯、以前訪れた雷神社堂内に漂う暗く重い空気感、かつての祭事における役割。機械であるカメラの目は、次々に浮かぶ情報や記憶を切断し、像を照らす光と陰をただ定着させる。もしかすると、写真に人の感情や思いを込めようとする、その行為自体が一つの「祈り」に通じるのかもしれない。風神雷神像、二つの顔にかつて私が幼少の頃に抱いた恐れ、人々が捧げた数多の祈りの蓄積を思い撮影に臨んだ。
01-1-a 草彅裕《雷神社・風神像》
01-1-b 草彅裕《雷神社・雷神像》
草彅裕(Yu Kusanagi)
秋田県出身、東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科修了。主な受賞として、2019年「キヤノン SHINES」入選(梶川由紀選)、2010年「キヤノン 写真新世紀」佳作(蜷川実花選)、2007年「コニカミノルタ フォト・プレミオ」入賞、2005年「APA公募展」文部科学大臣奨励賞。主な個展として、2007年「arkhē~水と太陽~」コニカミノルタプラザ(東京)、2016年「SNOW」コニカミノルタプラザ(東京)、2018年「ACID WATER ─流転の水系─」キヤノンギャラリー(東京・大阪・愛知)、「水の粒子」Cyg art gallery(岩手)、2019年「流転の水系」仙北市立角館町平福記念美術館 (秋田)など。主なグループ展として、2014年「ネイチャー・イン・トーキョー」KYOTOGRAPHIE 国際写真フェスティバル 有斐斎弘道館(京都)、2018年「夜と美術」秋田県立美術館(秋田)、2019年「The Narrative of the Shore」CASE Space Revolution(タイ・バンコク)。写真集として、2016年『SNOW』(FOIL出版)がある。
web:https://yu-kusanagi.com/