現代山形考〜藻が湖伝説〜


〇二   X教授の研究室

最終更新日:二〇二〇年九月一一日

最終更新日:2020年9月11日


水の記憶 ─ヤマガタダイカイギュウ─
草彅裕

1978年、山形県大江町地区を流れる最上川で発見された、ヤマガタダイカイギュウの化石。未来に残すべき貴重な資料として、現在は山形県立博物館の地下倉庫に保管されている。推定900万年間も、最上川の水底で眠り続けたという化石。その頭蓋骨の実物標本を撮影する機会に恵まれて以来、途方もない時の流れを数字や言葉だけでなく、写真によって視覚的に表現できないかと考えるようになった。

作品としての構想を巡らせ続け、遂には化石の発掘地を訪れ、プリントした写真を最上川に沈めて撮影した。かつて、ヤマガタダイカイギュウが息づいていた地に流れる風や水の音、日差しの暑さと水の冷たさ、生き物の気配、樹々や土のにおいを五感で感じシャッターを切る。一方、機械であるカメラは私の思いや感覚を切断し、光学的現象の結果として、ただそこにある光と影を定着させようとする。しかし、その写真は私が博物館でライティング、撮影したプリントの複写でもある。複製と実物、主観と客観、記録と記憶。対照的な複数のレイヤーの重なりを通し、写すことができない身体的なリアリティーを写真に込めようと試みた。

水のゆらめきと太陽の輝き、川底の砂とプリントの粒子が、ヤマガタダイカイギュウの造形と交わる瞬間。写真として発見された新たな光の化石を採集し、最上川の悠久なる「水の記憶」を可視化する。


02-3-a1~5  草彅裕《水の記憶 ─ヤマガタダイカイギュウ─》


草彅裕(Yu Kusanagi)

秋田県出身、東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科修了。主な受賞として、2019年「キヤノン SHINES」入選(梶川由紀選)、2010年「キヤノン 写真新世紀」佳作(蜷川実花選)、2007年「コニカミノルタ フォト・プレミオ」入賞、2005年「APA公募展」文部科学大臣奨励賞。主な個展として、2007年「arkhē~水と太陽~」コニカミノルタプラザ(東京)、2016年「SNOW」コニカミノルタプラザ(東京)、2018年「ACID WATER ─流転の水系─」キヤノンギャラリー(東京・大阪・愛知)、「水の粒子」Cyg art gallery(岩手)、2019年「流転の水系」仙北市立角館町平福記念美術館 (秋田)など。主なグループ展として、2014年「ネイチャー・イン・トーキョー」KYOTOGRAPHIE 国際写真フェスティバル 有斐斎弘道館(京都)、2018年「夜と美術」秋田県立美術館(秋田)、2019年「The Narrative of the Shore」CASE Space Revolution(タイ・バンコク)。写真集として、2016年『SNOW』(FOIL出版)がある。
web:https://yu-kusanagi.com/


作品データ


02-3-a1~5  草彅裕《水の記憶 ─ヤマガタダイカイギュウ─》

2020/インクジェットプリント/103.2×157cm(1点)/72.8×103.2cm(2点)/51.×72.8cm(2点)