物流
狩野宏明
「藻が湖伝説」と「想画」を手がかりに、自然と人間の営みの関わりと、人や物の移動による文化の交流と混淆をテーマとした絵画作品を制作する。
東根市の龍泉寺に残された「マリア観音像」を象徴的なモチーフとして、村山地方に関わりの深い観音や地蔵を、キリスト教における守護聖人信仰と重ね合わせて描く。
地域固有の伝承や営みを出発点としながら、広く人間の歴史に通底する自然との関わりや異文化の混淆を描きたい。
作品は《ガイドツアー》《働く人》《物流》と題した3点の絵画で構成される。山形ビエンナーレ2020で完成作品を公開するのは3点の中の《物流》という作品である。
絵画作品《物流》は、「藻が湖伝説」における東根の「荷渡地蔵」や寒河江の「舟着観音」など、水陸の人や物の移動や旅の安全を願う信仰に着目し、キリスト教における旅や移動に関わる守護聖人信仰と重ね合わせて捉え、物理的・精神的な移動や旅をテーマに制作した。
「藻が湖伝説」から連想を広げて、人や物の移動や、様態の変化を想起させるモチーフを組み合わせた情景を構想し、移動や変化を繰り返し流転する生命の営みを描いた。
※作品タイトル(2022年までの全体構想) 《ガイドツアー》 《働く人》 《物流》
2022/油彩、白亜下地、綿布、パネル/162×194cm(3枚組)
※山形ビエンナーレ2020出品作品 《物流》
2020/油彩、白亜下地、綿布、パネル/162×194cm
04-4-a1 狩野宏明《物流》
04-4-a2 狩野宏明《物流》 制作プロセス動画
04-4-b1 狩野宏明《ガイドツアー》《働く人》《物流》 2022年までの全体構想エスキース
04-4-b2 狩野宏明《物流》 2022年までの全体構想エスキース(部分)
作品テーマ「移動や変化を繰り返して流転する生命の営み」
・「藻が湖伝説」との関わり(荷渡地蔵、舟着観音:水陸の人・モノの移動、旅の安全祈願信仰)
・キリスト教における守護聖人信仰(聖クリストフォロス:川の渡し守、旅人の守護聖人)
・宇宙、星々、命の誕生のイメージ、不用品・廃棄物のモチーフ(生命やモノが様々な状態に変化、流転する)
・宅配便、郵便物、物流のイメージ(離れた場所にあるものが届く。「運ぶ人」の存在)
・装飾文様(マクロコスモスとミクロコスモス。連綿と繋がるさま)
04-4-b3 狩野宏明《働く人》 2022年までの全体構想エスキース(部分)
作品テーマ「自然と人間の営みとの関わり」
・長瀞の想画との関連
・実家で取材した村山地方の労働のイメージ(農耕、農機具、道具)
・馬頭観音(農業との関わり、富並森地区の氏神)
・聖ゲオルギウスと竜(農業の守護聖人、治水の象徴、竜(川)を退治(治める)、水と生活)
・家族の歴史
04-4-b4 狩野宏明《ガイドツアー》 2022年までの全体構想エスキース(部分)
作品テーマ「人、物の移動による文化の交流と混淆」
・マリア観音像(山形県東根市龍泉寺)(東西文化の混淆、人・モノの移動の象徴)
・ピサの聖ボナ(旅行ガイドの守護聖人、客室乗務員のイメージ)
・飛行機のコクピット、船の操舵室のイメージ
・個人的記憶、世界観形成(山形の教会での経験:カナダのシスター、オルガン、紙芝居)+(里山思想:半分人工で半分自然、サイボーグ的?)
04-4-c 狩野宏明《マリア観音像》(《ガイドツアー》制作へ向けたドローイング)
狩野宏明(Hiroaki Kano)
1983年山形県生まれ。奈良県在住。2010年筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程芸術専攻修了。2018年に最上川美術館・真下慶治記念館企画展示室にて「狩野宏明展 SCAFFOLDING」を開催。「みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ2018」では、「ムカサリ絵馬とサイボーグ」をテーマとした絵画作品を展示。ギャラリー広田美術(東京)にて2010年より定期的に個展・グループ展を開催し、「第16回岡本太郎現代芸術賞展」(川崎市岡本太郎美術館、2013年)などコンクールへの出品も多数。2010年から2012年にかけての文化庁新進芸術家海外研修制度によるイタリア滞在の経験をもとに、西洋の古典絵画の主題と形式を参照しながら、「人間を取り巻く環境やモノとの関わり」を主要なテーマとした絵画作品を展開している。
web:http://kanoke.net/kanohiroaki/
撮影:横山大介