藻が湖伝説の断片 多元的記録
ニコン
山形盆地には藻が湖伝説にまつわる名称がいくつか遺っています。例えば船着観音堂。小高い丘の上にあり、今はない水の記憶を想起させます。一方で、時間の経過とともに変化していくものもあります。寒河江市の波除地蔵は、もともとの地蔵堂から地域の共同墓地に移設されていました。その場所にあったことの意味が失われていきます。
同じように変化の大きなものに無形民俗芸能があります。無形民俗芸能は、舞踊や歌に加えて、装束や道具、また奉納する場そのものを含んだ総合芸術です。そのため地域の環境やそこに住む人々の営みを反映され、変化していきます。その継承には、その土地に住む人たちの大きな努力が必要になります。そんな地域の方の力により継承された民俗芸能のひとつが、東根市長瀞地区の長瀞猪子踊りです。長瀞猪子踊りの中には藻が湖伝説にかかわる演目が残されており、地域の日枝神社での奉納に加えて、演目に従い、山寺への奉納を続けています。
後の歌切り
大山から 岩が崩れて かかるとも 心静めて 歌の由緒聞け 歌の由緒聞け
この土地は 昔湖なりけれど 今は豊かに 五穀実れる 今は豊かに 五穀実れる
これもみな 大師のご恩なりければ 山寺山に 参る猪子舞 参る猪子舞
参りきて これの奥の院 拝むれば みだやくし 中に大師まします 大師まします
よせてからまる 蔦の葉も 縁がなければ ぱらとほごれる ぱらとほごれる
コロナ禍の影響で春祭りでの奉納は中止されましたが、8月には山寺での奉納は継続されました。長瀞猪子踊りの皆さんの継承への強い思いが感じられます。今回は奉納先の山寺根本中堂の3次元記録と奉納の様子の映像記録を実施しました。今後はコロナ禍の影響での変容などを保存していくため、演舞の3次元記録なども含めて続けていきたいと考えています。
04-9-a ニコン《船着観音堂3Dデータ》
04-9-b ニコン《波除地蔵3Dデータ》
04-9-c1 ニコン《山寺立石寺根本中堂点群データ》
04-9-c2 ニコン《山寺立石寺根本中堂メッシュデータ》
04-9-c3 ニコン《山寺立石寺根本中堂3Dモデルデータ》
04-9-d ニコン《長瀞猪子踊り 猪子頭3Dデータ》
参考:3D民俗芸能記録 達古袋神楽(岩手県一関市) 鶏舞(2017年)
(協力:達古袋神楽保存会・縦糸横糸合同会社)
中川源洋・中嶋謙一・平野和弘(ニコン)
1917年創立。ニコンは100年を超える歴史の中で、光利用技術と精密技術をもとに、デジタルカメラや双眼鏡、顕微鏡、半導体製造装置、検査装置など、多様な製品やソリューション提供してきた。目指すは、技術とアイディアで豊かな社会を実現すること。近年は、色鮮やかな光に加えて、人間の目には見えない不可視領域の光を用い空間の3次元形状を取得する技術を開発し、自然やスポーツなどの写実的な表現だけではなく、VR/AR/MRといった、先端コンテンツなどにもこの技術を活用している。また2019年、デジタルアーカイブ学会で、郷土芸能や民俗芸能の継承や文化保存のための3Dアーカイブ技術に関して発表。郷土芸能保存会のような団体自身がデータ化できることがシステムの特長。3Dアーカイブ技術は、踊りに加えて、装束の動きや演技空間そのものを記録することができる。今後は、さらにニコンの得意とした技術で、観光産業などの経済活動、芸術表現などの文化活動への貢献を目指す。