現代山形考〜藻が湖伝説〜


〇五   祈りの絵馬と山寺と

最終更新日:二〇二〇年九月一一日

最終更新日:2020年9月11日


現代版ムカサリ絵馬
青山夢

今回私は「ムカサリ絵馬」の「架空の結婚式」をキーワードに山形ビエンナーレに向けて制作してきた。「ムカサリ絵馬」をどのように発表していくか、悩んでいた時に、ちょうど10年前生まれるはずだった新しい兄弟が、この世に出ることなく亡くなってしまったという話を母親から聞かされた。この話を聞いた時、この世にない存在について深く考えさせられ、なんらかの形で死者や架空の存在を表現したいと考えた。

現実ではありえない双子の結婚のような、言い伝えや迷信なども「架空の結婚式」となり得ると考えている。漫画やアニメなど、二次元のキャラクターを推しや嫁と呼ぶ風潮や俳優の個性を一切排除してアニメのキャラクターになりきる2.5次元の世界、異類婚礼譚といったサブカルチャー(欲望の文化)や昔話とが「ムカサリ絵馬」と混じり合い、現実では実現できないが誰かの理想や欲望を「架空の結婚式」として発表していきたい。


05-2-a1~3  青山夢《現代版ムカサリ絵馬》

05-2-a1  青山夢《推しのいる世界》
漫画やアニメなど、二次元のキャラクターを推しや嫁と呼ぶこと知ったのは、ちょうど私が中学生の時だった。当時は、VOCALOIDが流行した時期でもあり、初音ミクの存在がとても印象的だった。現代は、実際に二次元キャラと「VR結婚式」をあげることができるイベントなども行われている。この作品では、初音ミクという二次元のキャラクターとVR装置をつけた新郎を、絵画空間に落とし込むことで、VRの中だけで終わらない「架空の結婚式」を成立させた。

05-2-a2  青山夢《カリソメ同盟》
スマホネイティブ世代の私の周りで流行しているのは、「加工アプリ」の存在だ。いつでも、誰の手にも、カメラがあるそんな青春を過ごす私たち。加工アプリで〝盛る〟ことで、普段の自分よりも可愛く見せたり、理想の自分に近づけて撮ることができる。誰もが平等に可愛く、平等に別人である、SNS上の架空の存在に着目し制作した。

05-2-a3  青山夢《冥福の定義》
ムカサリ絵馬とは、山形県村山地方に分布する死者供養習俗である。未婚の死者を慰めるため、結婚の様子や婚礼衣装をまとった死者とその伴侶を紙や木に描き込み寺院などに奉納する。この死者の伴侶は架空の人物とすることが暗黙の了解となっている。この作品は、ムカサリ絵馬の「架空の結婚式」をキーワードに製作した、架空の人物同士の結婚の様子だ。


青山夢(Yume Aoyama)

1997年茨城県生まれ。山形県在住。日本大学芸術学部から東北芸術工科大学に3年次編入。現在、東北芸術工科大学院在学中。2019年3月に、3331 ARTFAIR TOHOKUCALLING アーツ千代田 3331に参加。2019年11月には『青山夢個展“不条理を凝視せよ”』コート・ギャラリー国立(画廊企画)にて初個展。第72回二紀展二紀賞一般の部最優秀賞受賞。学部の4年時は、学内のアーティスト養成プログラム TUAD Incubation Program(T.I.P)に選出。2020年2月には、クラウドファンディングプロジェクト「あなたの日常の出来事や思いをアート作品に。」参加。これまで私は、組み合わせによって生まれる、キメラ的なキャラクターや空間などの偶然性を利用しながら、虚構の表現を絵画空間で追求した。また、集団と個、外部と内部、依存と自立などを、自分の中で消化し、可視的表現によって、現実の中の不可視な部分に迫る試みをしてきた。


作品データ


05-2-a1  青山夢《推しのいる世界》

2020/パネル、油彩/59.4×84.1cm


05-2-a2  青山夢《カリソメ同盟》

2020/パネル、油彩/59.4×84.1cm


05-2-a3  青山夢《冥福の定義》

2020/パネル、油彩/75.7×60.6cm