現代山形考〜藻が湖伝説〜


〇七   山形のかたち

最終更新日:二〇二〇年九月一一日

最終更新日:2020年9月11日


Next Newness
発展の意味を問い直す代替案
アメフラシ

アメフラシは、山形県長井市を拠点に「今」と「これから」を複眼的に捉える装置であろうとしている。

廃工場をリノベーションし、活動拠点でありながら流動的に在り方を変化させ、市民アトリエ的なスペースを目指していく〈Kosyau Project〉。祭りで使われる「草鞋」や伝統産業であった「金井神ほうき」の生産持続可能なシステムを構築するべく動画を制作し、技術を受け継ぎアーカイブ化を行う。

作り続けることの実践は、意味があるのかないのかも含めた問いかけであり作品でもある。失くなっていく事の方が自然かもしれない様々な事象について、継続する事から見えてくるものは何だろうか。自身が問いかけであり続けることを想像している。

2017年から始まったKosyauプロジェクト『市民参加型旧工場芸術的再開発計画』は、福武財団「文化と芸術による地域振興の助成」、長井まちづくり基金、やまがた若者チャレンジ応援事業の助成を受け、アメフラシのスタジオ兼事務所、ワークショップやイベントの会場として少しずつ開かれた場となりつつある。イーゼル作りや椅子リメイクなどのものづくりワークショップや、絵画教室としての役割も担うART class、地域のイベントに合わせてカフェなどを開催している。


旧芳文社工場「Kosyau」

Kosyauプロジェクト説明会(2017)

Kosyau天井撤去ワークショップ(2017)

Kosyauプロジェクト大工道具箱づくりワークショップ(2017)

通常は横浜のblanClassで行われる「ASSEMBLIES」は、参加者が各々の関心やアイディアを持ち寄る不定期の集まり。改修中のKosyauでの開催が実現

〈Kosyau ART class〉小学生から大人まで、幅広くアートに触れてもらう機会として実施

元のイベントにあわせてカフェスペースに


〈草鞋〉

1000年以上続くといわれる伝統祭事〈黒獅子祭り〉。むかで獅子とも言われる黒い獅子の幕の中には、草鞋を履いた獅子連の舞い手が約20名入っている。

その獅子連が履く草鞋が、近年入手困難になってきている。草鞋を編む作り手の高齢化と継承者不足、稲の品種改良とコンバインでの刈り取りで稲藁が短くなったことによる材料不足。理由は様々で、地域によっては地下足袋に切り替えているところもある。街なかを練り歩くと1〜2日で使えなくなる草鞋よりも、足袋の方が便利かもしれない。生活スタイルの変化や農家の負担を考えたら、草鞋文化自体、失くなる方が自然なのかもしれない。

そ2018年、草鞋の作り方を記録した教材を兼ねた映像と、草鞋を履き続けたいと言う長井市勧進代の獅子連の若衆が、草鞋のためだけに植える穂の長い稲作りを手伝う2年がかりの映像作りが始まった。

そ映像が完成した翌年の2020年、勧進代では昨年と同じように、若衆たちが草鞋用の稲づくりを手伝う取り組みが続けられている。田植えから収穫、稲藁の下処理、草鞋づくりのワークショップまで。草鞋を履き続けたい人々が協力して自分たちの草鞋を編めるところまでのサイクルができたら、無理なく自然に、草鞋を履く文化が続いていくかもしれない。

YouTube「草鞋をつくる」
YouTube「稲藁をつくる」

草鞋づくりワークショップ(2018)

獅子連が草鞋の素材となる藁を柔らかく打つ作業を手伝う

藁打ち作業の撮影

勧進代の草鞋づくりワークショップ(2020)

勧進代の草鞋づくりワークショップ(2020)

草鞋づくりワークショップ(2020)市内中から参加者が集まる草鞋づくりのワークショップ


〈アーティストの冬仕事(金井神ほうきプロジェクト)〉

〈アーティストの冬仕事〉は伝統産業・名産品として販売されていた「金井神箒」が市場から消えた事から端を発するプロジェクトだ。組合最後の箒職人から、素材となるホウキモロコシの種を譲り受け、素材の栽培・作り方を一から習い、研究を続けている。かつての農家の冬仕事になぞらえた〈アーティストの冬仕事〉では、失われていくものを復活させようとする事で生じる矛盾とも向き合いながら作品を展開している。

このプロジェクトにおいて、アーティストは伝統産業などの技術をストックする、装置やプラットフォームとしての機能を持つ。一時的に技術を継承し次の人へ受け渡す準備をしていると言ってもいい。長井に移住してきた作家やデザイナーの生業のひとつになれば、失くなりつつある文化が残っていくのか、亡くなっていく事の方が自然なのか、の一つの未来が見られるかもしれない。

ホウキモロコシの収穫(2020)

収穫後の脱穀と下処理(2020)

ほうき作りの下準備

ほうき制作


〈Next Newness 発展の意味を問い直す代替案〉

草鞋文化にしろ、金井神ほうきにしろ、受け継がれてきた文化が失くなっていくにはそれぞれ理由がある。生活スタイルの変化や消費社会、物流の発達も、理由の一つにすぎない。見て見ぬふりをして、衰退をなすがままにするのは簡単だし、「伝統や文化は大事だ」と声を上げて守ろうとするのも、そう難しいことではない。

新作〈Next Newness 発展の意味を問い直す代替案〉の光る箒(ほうき)は、穂と胴の部分以外は天然素材を使用しないことで、逆説的に自然への敬意を表した。春に種を蒔き、夏中世話をし晩夏から初秋にかけて収穫する。収穫後は脱穀や下処理を行い、冬にようやく箒を編むため一年がかりの作業になる。丁寧に編まれた箒は使用場所を替えて30年使うことができるが、かかった手間は付加価値ではあっても、正義とは限らない。

文化が消えていくような社会の発展が、本当の発展なのかどうかも含めて、自分たちを取り巻く社会を否定するのではない形での可能性を探りたかった。

06-1-a1~2  アメフラシ《Next Newness 発展の意味を問い直す代替案》


アメフラシ

2015年結成。山形県長井市を拠点に活動。美術家、画家、文筆家、デザイナーの4人をコアメンバーとして構成。アート・デザインを通した地域との関わり方を模索している。作家が生きている間に作家自身に伝統技術をストックする「アーティストの冬仕事」は、金井神ほうきや草鞋などの地元の伝統産業を継承するプロジェクト。2016年より廃工場の活用「Kosyauプロジェクト」を開始。季節や土地のイベントに合わせて用途を変容させる形で、自分たちの拠点でもありながらスペースの在り方が変化していく、市民アトリエ「Kosyau」を運営。スタジオ、ショップ、飲食スペースとしての活用やイベント、ワークショップなど開催し、地元住民と共にワークショップ形式でものづくりの場を創造。長井市と文科省の共同企画「よみきかせの普及絵本」の制作や、その他デザインなどを手がける。2018年山形ビエンナーレに「かないがみほうきのこと」を出品。
Instagram:https://www.instagram.com/llp_amefurashi/
web:https://ame-furashi.com/


作品データ


06-1-a1~2  アメフラシ《Next Newness 発展の意味を問い直す代替案》

2020