日本の形象化
吉賀伸
データによる経験が社会生活に充満している。情報の波は中心としての身体そのものを置き去りにしながら、身体性の拡張を益々促す。感染症との併存という新たな課題によって、身体は「不快」で「不自由」なものになりつつある。身体の喪失は、日本社会が成長と変化を標榜してきた結果のみならず、さらなる快適さを導くための目的にさえなるかもしれない。いったいいつまで、触知する主体(身体)を曖昧にしたまま、実態を感得できない不安とストレスを引きずらなければならないのだろうか。
幻影のようなリアリティにもがく日本の偶像。まるで空洞であり続けたポンペイの人型のように、自分の境界を自分で定めることができないでいる。中心としての身体の不在を回復するために、この像から新たな姿を立ち上げなければならない。
07-4-a1~3 吉賀伸《Phantom -struggle-》
参照画像:ポンペイの石膏遺体像(写真:吉賀伸/2007年)
西暦79年に発生したヴェスヴィオ山の大噴火による火砕流でポンペイは一瞬のうちに灰に埋もれた。1748年の再発見によって発掘作業が行われ、火山灰の中から遺体部分だけが腐ってなくなった空洞が見つかった。考古学者たちはここに石膏を流し込んで、逃げまどいながら死んでいった人々の姿を再現した。ポンペイ遺跡の中の各所で展示されている。
吉賀伸(Shin Yoshika)
1976年、山口県生まれ。山形市在住。2001年、筑波大学大学院芸術研究科彫塑専攻修了。2003年、東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。2007年、平成19年度五島記念文化賞美術新人賞受賞。2008年、五島記念文化財団(現・東急財団)の助成によりパリを拠点にヨーロッパに1年間滞在。2014年、個展「UNFORMED SENSES」(日本橋髙島屋美術画廊X)を開催。2018年、みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018「現代山形考」、「やまはかたる」、「カフェのような、彫刻のような」に参加。2019年、グループ展「Figurative Sculpture -the exploration of its novel ways-」(ギャラリーせいほう)に出品。“彫刻の一素材としての陶”という観点から、土の持つ可変性を様々に引き出し、素材の制約と概念を超越した大型の彫刻作品を主に制作。近年では火・水・雲・棚田・氷瀑などの自然の形象と、塑造のプロセス及び陶の特性との親和性・類似性について探究している。
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