ピーヒョロ…
ピーヒョロロロロ…
ピーヒョロ…
トビは羽ばたかず、尾尾を巧みに操り風に舞う。晴れ渡った秋空の下、湖面は涼風に揺らめき、帆を張り進む小舟が何艘か見える。浅いすり鉢状の対岸には大きな欅が何本も立ち並び、東から西へと運ばれる荷をゆっくりと待つ。今年の夏は雨も多く、湖もなみなみと水をたたえている。ひときわ大きな欅に小舟を繋ぎ、見上げると小さなお堂が見える。舟運を祈るためか、質素なお供え物が絶えない。お堂にお参りし、東の方向を眺めながら一服する。ここから眺める奥羽山脈の風景が大好きだ。
ピーヒョロロロロ…
藻が湖伝説をご存知ですか? 山形盆地が「藻が湖」(もがうみ)という、まだ湖水の下だった頃のことです。
大昔、山形盆地の真ん中には藻が湖という大きな湖があり、この湖の東に連なる奥羽山脈の麓を東根と呼び、対岸の寒河江には西根という地域がありました。寒河江は西村山地方一番の町として栄え、対岸の町と交易のために毎日多くの舟が湖を行き交っていました。西根の舟着場近くの小高い丘には、船着観音と呼ばれる大木山観音堂が置かれ、舟運の安全を願う人々の信心を集めていました。その後、奈良時代の行基、平安時代の慈覚大師円仁による開削工事により水が流され肥沃な土地がここ山形盆地に現れたというお話です。
一九七〇年代に耕地や用水路の大規模な整備がおこなわれたことで、藻が湖があったであろう場所から古代人の住居跡が発掘されるに至り、その存在の有無をめぐって様々な論議がなされてきました。しかし、現在の山形盆地を巡ると、地名や信仰、民話や芸能といったものの中に水の記憶がそこかしこに刻まれています。
山形が海の下だったヤマガタダイカイギュウの時代から、ポストコロナの未来までを夢想し、ありえたかもしれない世界を夢想するプロジェクト「現代山形考」が始まります。
さぁ、水の記憶を巡る旅に出かけましょう。
00-0-a 現代山形考〜藻が湖伝説〜ポスター(藻が湖新聞号外)
三瀬夏之介(Natsunosuke Mise)
1973年奈良県生まれ。山形市在住。1999年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。東北芸術工科大学教授。2009年VOCA賞受賞。作品は和紙と墨、金箔など日本画の素材を用いて大画面を構成し、伝統的な素材を用いつつも、現代性をもった大きなイメージとなっている。現在は東北地域における美術のあり方を問うプロジェクト「東北画は可能か?」を展開している。主な展覧会は、「MOTアニュアル2006 No Border「日本画」から/「日本画」へ」(2006・東京都現代美術館)、「Kami. Silence – Action 」(2009・ドレスデン州立美術館)、「太田の美術vol.3 2020年のさざえ堂 ─現代の螺旋と100枚の絵」(2020・太田市美術館・図書館)他。
web:http://www.natsunosuke.com/
撮影:草彅裕
宮本晶朗(Akira Miyamoto)
1976年、東京都生まれ。株式会社文化財マネージメント代表取締役。文化財(仏像、近現代彫刻)の保存修復。2008年、東北芸術工科大学大学院修士課程保存修復領域(立体作品)修了。2008~2014年、白鷹町文化交流センターにて学芸員として勤務し、展覧会としては「山形若手アーティスト展」、「塩田行屋の仏たち」、公演としては「鈴木ユキオ、白鷹と踊る」、「森下真樹 それってダンスなの?」、「向井山朋子 夜想曲/Nocturne」などを企画・担当する。東北芸工大文化財保存修復研究センター学外共同研究員として、仏像等の調査・研究や保護活動に参加。2015年、国内最大級のビジネスコンテストである「TOKYO STARTUP GATEWAY」において、「仏像修復クラウドファンディング」のプランをもってファイナリストに選出。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」にキュレーターとして参加。現在は地域文化財の保存や修復を軸に、文化財・アート・人を繋いで場を作る活動を実践中。
撮影:草彅裕
阿部麻衣子(Maiko Abe)
1985年、北海道生まれ。印刷博物館インストラクター・研究員/株式会社文化財マネージメント研究員。2009年、東北芸術工科大学芸術学部美術史・文化財保存修復学科卒業。2009〜2012年、ライフ株式会社に勤務、「シェプフェル」など紙文具製品の企画、デザインをおこなう。2012年、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションに学芸員として勤務、「南桂子展船の旅」、「浜口陽三の世界」の企画・運営に関わる。2013年、TOTO株式会社文化推進部に勤務、建築書籍の出版業務に関わる。2014年より現職にて活版印刷の保存と伝承、印刷技術や歴史の教育普及に携わり、主な担当講演会・ワークショップとして、「欧文活字カレンダー」「きらめく箔押しノートブック」「和文活字ことはじめ」などを企画・運営。これまで印刷やタイポグラフィ、製本に関する仕事に従事するかたわら、地域文化財の保存修復・調査を通して地域社会の保全を目指し活動中。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」にはアシスタントキュレーターとして参加。
撮影:玉城尚俊